皮脂の役割を解説します
皮脂は肌のコーティング剤
皮脂を分泌するのが皮脂腺です。皮脂は、皮膚表面に分泌され、皮脂膜と呼称される膜を形成して皮膚をコーティングし、保護する作用をもっています。
皮脂はpH4~6の酸性で、これで覆うことによって肌表面を弱酸性に保持し、雑菌の繁殖を抑制しているのです。
また、皮脂は肌や髪にツヤとなめらかさを持たせる作用も持っています。皮脂腺は通常毛穴へとつながっていて、毛穴に分泌された皮脂は毛を伝って毛の表面をコーティングしています。天然のヘアクリームと言えます。
肌の潤いをキープすることを目的に皮脂が大切であると考えている人がいるようですが、角質層の水分を守っているのはおもにセラミドです。肌の保湿に関しての貢献度は、セラミドが約80%、皮脂は2~3%程度といわれます。言ってみれば、皮脂には潤滑油と同じ様になめらかさを与える働きは見られますが、うるおいを保持するものではないのです。
クッキングやデザート作りの仕上げに、バターを塗ってツヤを出したりすると思いますが、皮脂はそれに類似したものと理解してください。あるいは自動車のワックスみたいに、表層をコートして保護する働きを見せるものです。基本的に外面をコーティングしているだけで、肌の深層の潤いをキープする力はほとんどありません。それどころか、あり過ぎるとニキピ、肌あれ、老化といった肌トラブルのもとになります。美容を考えると、余分な皮脂はある程度洗顔などによって洗い流すことが必要となります。
※ pHというのは、酸性、アルカリ性の強度を0 ~14で表したもの。pHが小さいほど酸性、14に近づくほどアルカリ性。中性はpH7。
皮脂は弱酸性
肌が弱酸性であることは一般的に知られていますが、これは皮脂が酸性と言う理由からです。皮脂が多いオイリー肌の人であればあるほど、肌はますます酸性になります。男の人のほうが皮脂が多いことから、女性より更に酸性に傾きます。
「健康的な素肌というのは弱酸性」とよく言うのですが、不健康な肌であっても、皮脂があれば人間の素肌は基本的に弱酸性になります。具体的に言うと、オイリー肌でニキピが数多くできる人や、脂漏性皮膚炎のようなトラブルを有している人の肌であるとしても弱酸性になります。詰まるところ、肌が弱酸性であるということは、肌が健康であることを表すというのではなく、皮脂があるというのを意味しているというのが本当です。
ただし、アトピー性皮膚炎などで皮脂分泌が病的に低下している肌であったら、ある程度アルカリ側に傾くケースが見受けられ、これについては敏感肌の要因となります。
通常、皮膚はアルカリにさらされても、15分くらいでもとのpHに戻ります。これを皮膚のアルカリ中和能と呼びます。そのため、アルカリ性の温泉に入っても、肌表面は弱酸性にキープされるのです。
この中和能力は加齢と共に若干低下し、お年寄りの肌が弱くなるひとつの原因となっています。
皮脂腺の分布と種類
皮脂腺が多くある部分は額と頭
皮脂腺は、手のひらと足の裏を除いたほぼ体全体に分布しています。
ひときわ皮脂腺の密度が高いのが額で、ついで頭皮、鼻、背中と胸、さらにワキの下、へそ、陰部などにおいても多く分布しています。こういった皮脂腺が多くある部位を脂漏部位といいます。
脂漏部位の皮脂腺分布密度は、1c㎡あたり400~900個にもなります。(脂漏部位以外では、1c㎡あたり平均100個程度、腕や脚ではもっと少なく50個くらいです)。
皮脂分泌のバランスがくずれると、脂漏部位が炎症を引き起こして赤くなってしまったり、かゆみを有するケースが見受けられ、これを脂漏性皮膚炎といいます。
※ 脂漏部位は、皮下脂肪が多くないところに該当します。その原因は明らかになっていませんが、皮脂には体温保護作用があることから、皮下脂肪の少ない部分の体温を守っているとも考えられています。
顔の皮脂腺は大きい
皮脂腺は、基本的に、毛穴に開口しています。顔面では毛は細く毛穴が小さいのと比べて、皮脂腺がとても大きく発達しています。これを脂腺性毛包といい、ニキビができやすい毛穴になります。皮脂腺が大きいので皮脂量が多く、それに比べて毛が細いことから出口がふさがれやすく、皮脂も詰まりやすいのです。
また、毛が生えていない部分の皮膚であれば、毛に付属しない皮脂腺が存在します。こういったものを独立脂腺といい、口唇、まぶた、乳輪、外陰部、肛門など、粘膜の近くに位置するゾーンに見られます(頬粘膜や鼻粘膜にもあり得ます)。
ホルモンバランスなどの影響によって独立脂腺が肥大化してしまうケースが認められ、これをフォアダイス状態と呼ばれています(白く小さいブツブツが発生してきます)。
10代の後半が皮脂分泌の頂点
皮脂分泌は、性ホルモンに基づいて促進されることから、10代の後半が分泌量のピークになります。女性であれば30代ごろを基点として減少され始めますが、男性では50代に及んでもそれほど違いがありません。
女性の場合、黄体ホルモンに影響されて皮脂が増加する事もあって、生理前に皮脂が増加することがよくあります。シーズンでいうと、夏の皮脂は冬の2倍近くになることもあります。
洗顔で皮脂を落とすと、皮脂分泌は盛んになります。2時間くらい経過すると皮脂膜が形成されることによって、そこからは分泌はゆるやかになります。皮脂腺には、皮脂膜を感知するセンサーを持っており、これによって一定レベルのところで皮脂分泌にストップがかかるように作られているのです。
洗顔をこまめに行うと、なくなった皮脂膜を元通りにするために皮脂腺は活発に働きます。これを何回も行うと、皮脂腺は常時フル回転しますので、少しずつパワーアップされて活動的になります。顔がテカるからといって洗顔しすぎると、さらにオイリー肌を引き起こすことがあるのはこの理由によってです。洗顔は、朝と晩2回までにとどめたほうが安心です。
皮脂の成分~皮脂は何でできているのか~
皮脂は、皮脂腺以外からも出る
肌をコーティングする皮脂膜は、実は毛穴から排出される皮脂だけによりできているのではありません。角化(ターンオーバー)の進行中に、表皮細胞の核が抜けて角質細胞に変化するとき、細胞の内容物が排出されますが、こういったものの内容物も皮脂膜の中に混ざり込みます。こういったものを表皮脂質と言っています。
また、汗ももちろん混ざり込むものですから、皮脂膜は、こういったものが渾然一体と混じり合った複雑なものによって構成されているのです。当然、各個人でその成分は差がありますし、日によっても若干異なり、顔や体の各部位によっても成分にばらつきが生じてきます。
おおまかな成分は以下の通りです。
皮脂
皮脂腺より分泌されるもので、皮脂膜の90%以上を占める。中性脂肪(トリグリセリド、その分解産物のジグリセリド、モノグリセリドなど)、脂肪酸、ワックスエステル(ロウ)、スクアレンなどを含んでいる。
表皮脂質
表皮細胞が角質細胞に変化するときに放出されるもの。リン脂質、コレステロールなど。
※ スクアレン…皮脂に特徴的に含まれる脂質で、コレステロールが形成される行程の代謝活動産物。角質を溶化する働きを持っており、肌をなめらかに保ち続けています。スクアレンは安定しない物質であるため、水素を添加して安定化したもの(スクアラン)が、皮脂に似た安心できる油としてコスメに採用されています。スクアランはおもにサメの肝臓から抽出して生成されますが、2004年のスマトラ沖地震以降、サメの収穫量が減り、スクアランの料金は高騰しました。それ以降、数多くの化粧品でスクアランの代替品が利用されるように変わってきました。
皮脂の成分
全体的にの皮脂の組成は、おおまかに次に挙げるようになっています( 組成には個人差が見られ、年齢や季節にも影響されて異なります)
- 中性脂肪43%
- ワックス工ステル25%
- 脂肪酸16%
- スクアレン12%
- コレステロール、コレステロールエステル各1~2%
皮脂腺では血液中の栄養素を基に皮脂を作り出すことが理由で、皮脂の中には中性脂肪やコレステロールなどといった血液と同じような成分が内包されるのです。
古くなった皮脂は洗顔で落とすべきなのか?
1日2回の洗顔で皮脂を落とす
「皮脂はなくてはならないものだから、洗い流しすぎないほうがよい」とよく言われますが、本当にそうでしょうか。
皮脂は肌をコーティングすることで、雑菌などから保護する機能をもっています。ですが、分泌されて時間が経過した皮脂は、酸化・分解されて肌あれや老化を促す物に変容していきます。
毛穴の周辺にはいつも皮脂がたまっているのですが、肌はそのポイントから老化していくことが近年解明されつつあります。
顔をよく見ると、皮脂が多くある鼻の部分の毛穴が最も開いています。頬を確認すると、鼻に近い皮脂がたくさんあるポイントから毛穴が開いてシワが生まれていくというプロセスがわかります。フェイスラインの近くにある、皮脂が少ないゾーンの皮膚は、毛穴も目立たなく綺麗ですね。
マイクロスコープを使ってお肌をズームアップして見たときも、皮脂がたくさんある部分のほうが、キメがなくなり、老化が進行していることがわかるようです。
古くなった皮脂が悪玉に変わって老化を促してしまいますから、l日2回程度は洗顔して、皮脂を洗い流すことが大切です。
朝一番は水のみで洗顔するというような人もいらっしゃいますが、皮脂は油汚れですから水だけでは落ちません。
あぶらとり紙を効果的に活用する
10代の後半から30代くらいまでの人は、l日2回洗顔してもなお皮脂が浮いて、テカッってしまう人が多いものです。そういったときは、あぶらとり紙も効果が期待できます。
「あぶらとり紙は皮脂を取りすぎるのでダメだ」とよくいわれますが、この点は思い違いです。もとより皮脂を肌に蓄える良い点はないわけですし、紙で皮脂のあますところなく取り除くことなど不可能です。皮脂のすべてが液状ではないことからです。皮脂はワックス(ロウ)なども含むので、部分的は固形物です。どれだけあぶらとり紙を付けても、100%を吸い取ってしまうことはできないので「取りすぎる」ほどは取ることができません。
皮脂悪玉説
生まれもったものは善玉か?
皮脂が肌にとってよいものであると思っている人が多いのは、「生まれもったものは100%善である」と、漠然と考えている人が多いことが原因でしょう。
多くの場合はそのとおりで、自然は本当にじょうずに作られています。けれども、自分の体から出るものは完全に善であるというと、そうともいえない所があります。
例えば汗は、あせもなどの肌トラブルのもとになります。自分の汗でパッチテスト(アレルギー検査)を行なうと、陽性に出てしまう人もいるというくらいです。涙や唾液も、皮膚に付着するとかぶれるのは認識しているとおりです。
古くなった皮脂は悪玉に変貌する
皮脂はとりわけ、酸化されやすく定まらないので、多種多様な卜ラブルのもとになります。とはいっても、「皮脂が潤いを守ってくれている」といったぼんやりとした固定観念のせいでなかなか思い込みから脱出することができない人が多いのが今の状況です。
残った皮脂は女性の肌において悪玉になる理由を以下に述べます。皮脂は生まれ持ったものでも、必ずしも善玉とはいえないということが、ご理解頂けると思います。もちろん、少しくらいの皮脂膜は肌を守る際に必須となるのですが、時間が経過すると悪玉に変わってしまうので、朝と夜に洗顔して落とすというのは必要になるのです。
老化と肌あれは、皮脂のあるポイントで引き起こされる
顔で見ると、Tゾーンの皮脂が多くある部分から毛穴が開いて老化していくということが見て取れます。毛穴が開くという事は「皮脂が詰まるから」と感じている人が多いですが、そうではなく、皮脂が原因となって毛穴周辺の表皮がタメージを受け、毛穴が広がっているのです。また、湿疹やニキビなどは、どんな所にできるかを考えてみたらいいと思います。
皮脂が多くあるポイント(脂漏部位)に湿疹や二キビといったトラブルが多く、皮脂の少ないポイント(例をあげると腕やお腹など)の皮膚のほうがトラブルが少ないということが見て取れます。
皮脂は不安定な脂である
皮脂に含まれるスクアレンは安定していなくて、空気に触れるとすぐに酸化します。また、皮脂中の中性脂肪も雑菌に分解されることにより、遊離脂肪酸と言われる刺激物質に変容してしまいます。とりわけ顔や頭は皮脂が多い部分なので、出来る限り洗って皮脂を取り除いて、コスメを使って保湿されたほうが肌を若く美しく保つことができるのです。化粧品の油は酸化・分解されにくいものを使用していることから、自然の油(皮脂)に比べてトラブルが生じません。
におう
お風呂にしばらく入らないと体が臭くなるのは、皮脂がおもな原因となっています。時間がたった皮脂が酸化されてにおっているのです。ということから、皮脂分泌の多い頭皮が、まっ先に臭くなるという訳です。肉や魚が古くなったら臭うのも酸化された脂が理由ですが、動物性の脂は古くなるとにおうんです。女性と比べて男性のほうが体臭が強力であるのも、皮脂の分泌が多いためなのです。
皮脂の保湿力は弱い
「年をとるにつれて脂っけが失われていき肌の潤いが無くなる」みたいによくいいます。加齢とともに皮脂が減少するという事は本当のことなのですが、肌が乾燥するというのはおもにセラミドが少なくなるからで、皮脂が減少することが原因ではないのです。シワが増加するというのもコラーゲンや工ラスチンが傷ついてしまうからで、皮脂が減ることが要因でありはありません。ですから、洗顔やあぶらとり紙で皮脂を取ったとしても、そんな理由から潤いがなくなってシワになるというはずがありません。
大人のニキビは皮脂の少ないエリアにできる
皮脂と言ったらニキビとの関わりがすぐに思いつきます。
皮脂はアクネ菌の栄養源になりますので、10代後半ごろの、皮脂分泌の活発な年頃になるとニキビで悩む人が増加するのです。この時期のニキビは遺伝的要因が非常に強くて、生まれたときからオイリー肌の人はどうしてもニキビが多くなりがちです。
20歳を超えたくらいからはマシになる人が多いのですが、大人ニキビといって、20歳を過ぎても良くならない人や、それどころか20歳を過ぎてからニキビができ始める人も多くあります。
大人ニキビのケースでは、必ずしもオイリー肌の人にできるとは言えません。顎などのような皮脂の少ない場所に密集してできる人もいるのです。つまり、10代のニキビ(思春期ニキビ)と比較すると、皮脂との関係性が薄いと言えます。
では、どうして大人ニキビはできるのでしょう。その理由としては明らかになっていない点が多いのですが、遺伝やお肌タイプというよりもライフスタイル(不規則な生活パターンやストレスなど)との関係性が強いと考えられます。なので、生活の見直しや内服治療であったりも必要になってくることがよくあります。過剰な皮脂が要因になっているわけではないですから、丁寧に洗顔するとかお化粧をセーブするというようなこれまでいわれていたニキビ対策のスキンケアだけでは、それほど改善はみられないようです。